インド映画を初めて見た方の多くが抱く素朴な疑問、「なぜこんなに踊るのだろう?」。
実は、この踊りにはインド映画の魅力が凝縮されているんです。映画ファンの視点から、その理由をご紹介しましょう。
1. 物語を紡ぐため
踊りは単なる余興ではありません。物語を進める重要な要素なんです。登場人物の感情や、これから起こる出来事を暗示したり。言葉以上に雄弁に物語を語ることもあるんですよ。
恋愛映画でよくある「言えない想い」なんかも、踊りなら表現できちゃうんです。
例えば、『バーフバリ 王の凱旋』(2017年) の “Kanna Nidurinchara” (カンナ・ニドゥリンチャラ)という曲では、ヒロインのデーヴァセーナが、アマレンドラ・バーフバリに恋心を抱き始めていることを踊りで表現します。
デーヴァセーナの内なる感情の変化を直接的な台詞ではなく、ヒンドゥー教の神クリシュナとラーダーの恋物語をモチーフにした踊りで再現することで、二人の関係性を暗示しています。燭台のあかりで調度品がキラキラ輝く王宮の中でデーヴァセーナは本当に美しく、控えめな振り付けと熱っぽい目線で、彼女の恋の芽生えが視覚化されました。
デーヴァセーナを見つめるアマレンドラにもフワッと風が吹き、(インド映画は恋に落ちると風が吹きます)二人の距離がグッと縮まったことを表現しています。
このように、「好きだ」とか「愛してる」だなんて言葉にすれば野暮なシーンも、音楽に載せることで美しく洗練されるのです。無駄に踊っているわけではないんですよ。
2. 観客の期待に応える見せ場
実は、観客の多くが踊りのシーンを期待して映画館に足を運ぶんです。人気俳優の踊りは特に注目の的。踊りのシーンは映画の一大見せ場で、興行成績にも大きく影響するんですよ。
多くの場合、映画の予告編に踊りのシーンが含まれます。これは観客の期待を高め、映画館に足を運ばせる重要な要素となっています。インド映画ファンは同じ作品を何度も見る観客も多いのですが、その理由の一つが印象的な踊りのシーンを再体験するためということが挙げられます。
印象的な踊りのシーンは、映画の興行成績を大きく左右します。例えば2022年の『RRR』の”Naatu Naatu”は、主人公二人の完璧にシンクロした高速ダンスが話題となり、映画の大ヒットにも貢献しました。
https://www.youtube.com/watch?v=OsU0CGZoV8E
3. 音楽・観光産業との関係
インド映画と音楽産業には密接な関係があります。
インド映画は、1作品に6〜7曲のソング&ダンスシーンが挿入されるのが一般的です。これは伝統演劇のスタイルを映画が踏襲したことに由来し、歌と踊りを含むスタイルがインド映画の特徴となっています。
映画の挿入歌は歌謡曲として一般に流通し、ヒット曲を生み出してきました。
踊りのシーンで使用される楽曲は、映画の公開前後で大きな人気を集めます。
インドの音楽市場は、世界第19位の市場規模(約1億1,160万ドル)を持ちます。また、音楽配信売上が65%を占め、パッケージ売上(11%)を大きく上回りました。
人気の踊りのシーンのロケ地が観光スポットになることもあります。
4.宗教的祭りと儀式
インドの多くの宗教的祭りや儀式には、ダンスが不可欠な要素として含まれています。そのため映画のダンスシーンは、しばしばこれらの祭りや儀式を再現または参照します。例えば、ホーリー祭(色の祭り)やドゥルガー・プージャーなどの祭りがよく描かれます。
次にインド映画を見るときは、ぜひ踊りのシーンにも注目してみてください。きっと新しい発見があるはずです。踊りを通して、インド映画の奥深さがより理解できるようになりますよ。
そして、気に入った曲があれば、家で踊ってみるのも楽しいものです。インド映画の世界にどっぷり浸れること間違いなしですよ。